
【old】vol.1 二つの暮らしを楽しむ家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて冬の京都へ。
家具デザイナーの小泉誠さんが、
アンティークが好きなIさん親子の家に会いに行きました。
家具デザイナーの小泉誠さんが、
アンティークが好きなIさん親子の家に会いに行きました。
家に会いに | 2010.1.15

ダイアログ1
だから、ここに建てました

「窓の家」
I邸|京都府、2009年1月竣工
建築面積: 35.00m?(10.58坪)
延べ床面積: 66.00m?(19.96坪)
家族構成: 母・娘
小泉 誠さんが会いにいった家
1970年代に造成された新興住宅地で、建築家が建てた築40年近い木造住宅で暮らしているIさん家族。隣の敷地にセカンドハウスとして「窓の家」を建てた。母屋はお母さまが手造りのステンドグラスや見事な木彫家具、趣味のパッチワークの作品が並び、アンティークの調度や古い家具、部材がなじむ、ぬくもり感と密度のある心地よい空間です。「わざと拙く塗装してくださいとお願いしても、プロはキレイに塗ってしまう」と、母屋の窓の目隠し扉も自ら刷毛を持って仕上げるほど手作業が大好き。「窓の家」の2階はミシンが据えられたお母さまのアトリエ。1階には100年前のアンティークミシンが、白い壁を背景に凛と佇んでいました。
Iさんの母屋のダイニングとキッチン。アンティークの建具、愛用の調理器具や丁寧に使われてきた古い家具など、たくさんの大切な品々に囲まれた心地よい空間。セカンドハウスは逆に、モノを置かない家にしました。
「おじゃまします」
「どうぞ、おあがりください」
- 小泉さん
- 僕は住宅の設計を依頼されると、建て主ととにかくいろんな話をします。でも、最初は家やデザインの話はほとんどしないですね。普段どんな暮らしを楽しんで、どんな洋服が好きか、ざっくばらんに会話を重ねていく。今日は「窓の家」に住んでいる方がどんな好みなのか、いろいろうかがってみたいですね。
家は、住まい手が暮らしながら「色」を着けていくのが良いと思うのですが、商品としての住宅は女性の好みを反映した◯◯風の内装や設備など、最初から「色」が着いている例が多い。そこに惹かれて建てる方もいるでしょう。でも「無印良品の家」にはそういう「色」がない。そんな住宅をあえて選ぶのは意外に勇気がいると思います。だから、お母様とお嬢さんが「窓の家」を選択したとことにも興味がありますね。そのへんからお話をうかがいたいです。
2軒目の家は究極のシンプルハウスで
- 娘
- もともと人気雑貨店風のかわいい家は好みではなかったんですよ。この敷地に建てられるのは小さな家だったので、究極にシンプルでいきたいなと思っていましたから。雑誌の小さな写真で「窓の家」を見て好印象が残っていて、そのイメージもありました。
- 母
- 母屋はモノでいっぱいなので、とにかくすっきりした場所で生活してみたいと思うところもあって。それで隣の敷地が空いたのでこの家を建てたんです。
- 小泉さん
- じゃあ、この家にはあまりモノを置かないで……。
- 母
- そうです。こちらで食事する時も母屋で下ごしらえして、キッチンでは温めるだけとか。週末にカバンに必要なものを詰めてこの家に来て、お風呂に入って音楽聴いて。テレビも置いてません。
- 小泉さん
- 隣に別荘があるみたいですね。日用品を隠す場所や、片付けに気を使わない場所はすごく大事だと思います。モノを見えながら隠すような場所とか。この家で少ないモノだけで生活するのは大変ですが、隣に母屋があるのはいいですね。
- 母
- 人には相反する二つの面があると思いませんか。すっきりした部屋も好きだけど、昔からのモノに囲まれた部屋もいい。だから、どちらかをガマンして暮らすより、新しい家を建てるなら母屋とは全然違う、遊びの家にしようと始めから考えてました。
- 小泉さん
- 理想ですよ。うらやましいです。
Iさんの日用品を選ぶまなざし
- 娘
- 女性好みの面取りされた丸いモノより、四角くてシンプルで機能的なものが好きなんですね。「窓の家」もそうですよね。あとは、どこかに作り手の考え方が息づいているように感じられるモノは良いなと思っていました。ファッションもトラッドが好き。ものづくりのストーリーや背景があるものに惹かれるみたいですね。
- 小泉さん
- 普段使っている食器もそういう視点で……。
- 母
- そんなたいそうなものではないですよ。
- 娘
- でも、母も私もアンティークがすごく好きなんです。古いものには時代を超えてきた堅牢さと物語がありますよね。ただ、全部をアンティークで揃えるという気持もないし、古いモノでも絵付きやかわいさがあるものはあまり興味が沸かないです。
- 小泉さん
- このティーセットを見てもそういう印象がありますね。
- 娘
- 自分の仕事が洋服のテキスタイルのデザインなので、どちらかというと色に惹かれるのかも知れないですね。とはいえ、男っぽいデザインになりすぎてもダメなんですが。
- 母
- アンティークというより、隣の母屋には代々使ってるモノがたくさんありますから。私を含めアンティークになってます。(笑)
- 小泉さん
- ちょっと、お母さん、そんなことはないですよ~。
家づくりの楽しみを満喫しました
- 小泉さん
- 建築家にお願いしようとは思いませんでしたか。
- 娘
- 有名建築家だと、お互いの擦り合わせが難しいような印象があって……。それに予算も心配でしたし。
- 母
- でも、私も娘もモノをつくったり考えたりするのが好きなので、最初は建築家に相談したんですよ。ただ、こちらの希望をどんどん伝えると、際限なく広がって、しんどくなってきたんですよ。
- 小泉さん
- 何がしんどくなったんですかね。
- 母
- 例えば玄関にはこんなドアが良いと言うと、いちいち探して自分で選ばなければならない。最初は楽しかったけど、何から何までやるのはかなわんなと思いました。
- 娘
- それで私が「無印良品の家」のことを知り、母にそれを伝えて一緒にモデルハウスの見学に行って、家に帰ったらもう「窓の家」のプラン集をハサミで切って、自分で組み替えて希望の間取りを考えてましたからね。
- 母
- 「無印良品の家」は私にも自由に間取りを考えられるし、窓も自分の希望の場所に大きさを選んでセットできるわけでしょう。いろいろ試してみましたよ。これは楽しいなと思いまして。もう夢中で。
- 小泉さん
- なんだか楽しさが伝わってきますね。
- 母
- ええ、それまであちこち痛い言うてたのが治ってしまいました。家をつくって元気になりました。(笑)