【old】vol.2 育つ家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて早春の佐賀へ。
『暮しの手帖』編集長、書店オーナーの松浦弥太郎さんが、
Mさん家族が暮らす見晴らしの良い家に会いに行きました。
『暮しの手帖』編集長、書店オーナーの松浦弥太郎さんが、
Mさん家族が暮らす見晴らしの良い家に会いに行きました。
家に会いに | 2010.4.9

ダイアログ1
だから、ここに建てました

「木の家」
M邸|佐賀県、2008年8月竣工
建築面積: 77.84m?(23.56坪)
延べ床面積: 91.91m?(27.80坪)
家族構成: 夫婦・娘
松浦弥太郎さんが会いにいった家
新しく造成された高台の住宅地は北西に開けていて北には小高い山が、西側には桜の林が広がっています。南側と東側には既に家が建っていたので、Mさんはあえて北西に面して大きな窓と吹き抜けを設けました。真昼の光が山の緑を照らし、柔らかな光が室内に差し込みます。大きな窓に面してウッドデッキを張り巡らせて、2階の浴室から直接外に出られるベランダを設置。豊かな眺望を暮らしにたっぷり取り入れるプランを考えました。ご主人の勤務先までは自転車通勤という職住接近。夜、大きな窓から溢れるオレンジ色の光が灯台のように自転車で帰宅するMさんを迎えてくれます。子供を育み、暮らしを楽しむMさんの「木の家」へ。
「こんにちは。今日はどうぞよろしく」
「こちらこそ。どうぞ、どうぞ」
- 松浦さん
- 家自体はコンパクトだけど、中に入ると日本の住宅にあまりない開放感がありますね。人工照明で隅々まで部屋を明るくするのではなく、大きな窓からの太陽光をうまく採り入れて生活する様子も海外の暮らしを思わせます。家に生活のリアリティがありすぎると、他人は居づらさを感じるものですが、この家はそのバランスも絶妙。もう少し広く建てることもできたように思いますが。
一人暮らしの経験って大切ですよね
- 夫
- 家の広さを最小限にしようと思ったのは、子供に早く巣立ってほしいと考えたから。ぼくも一人暮らしの経験が今の自分の暮らしに影響を与えていると思うので、子供には自由にいろいろな世界を見てほしいと思っています。いくらお金を持っていても小さな世界しか知らないと、それがその人の選択肢の幅になってしまう。だから子供には良いものをたくさん見てほしい。
- 妻
- まだ1歳なのにね(笑)
- 松浦さん
- ああ、でも、ぼくも同じ考えですよ。娘はまだ中学ですが、早く自分だけの暮らしを楽しんでほしいと思っています。
- 夫
- インテリアや家具に興味を持つようになったのも一人暮らしがきっかけでしたからね。一人暮らしといえばソファだろうと、今も2階にあるジョージ・ネルソンのソファを衝動買いしたり。
- 松浦さん
- 一人暮らしでぼくが最初に買ったものはソール・スタインバーグのポスターでした。ニューヨークの街を描いたイラストレーション。それを部屋に貼りたかった。
- 夫
- ぼくもポスター大好きですよ。
- 松浦さん
- 何もない壁に自分の好みの絵があると、そこが自分の場所になるような気がしますよね。
- 夫
- 自分の場所が何かを知るためにも、一人暮らしと海外旅行の刺激は大切だと思う。ぼくも松浦さんのように若くして海外の暮らしに触れていたら人生が変わっていたかもしれない。子供には良いものをたくさん見て、大きな視野を持ってほしいです。
- 松浦さん
- この「木の家」で育った子供は普通の住宅で暮らす子とは発想が変わるでしょうね。自分にはどんな家がふさわしいのか。どんなインテリアがいいのか。自分で考える力がつくと思います。育つ場所は大事。子供は家に育てられるのだと思いますよ。
家には時間にしかつくれない価値がある
- 松浦さん
- この家で気に入ってるところはどこですか。
- 夫
- ベランダのウッドデッキですね。子供がもう少し大きくなったら走り回って遊んでくれるのかな。お客さんが子供連れだと、子供は家中を走り回ってますからね。それから……。
- 娘
- パパ~
- 夫
- あ、2階から娘が呼んでますが、この吹き抜けも良いですよね。
- 松浦さん
- 無印良品の家を知らない人にはユニークに見えるでしょうね。
- 夫
- そのユニーク感を出したかったんですよ。友人が訪ねてきて「面白い家だね」と言われるような家をつくりたかったので。悪ふざけじゃないけど、普通とは違う面白みをいつも求めているんです。だからあえて無印良品の家具ではないものを合わせたり。
- 松浦さん
- 無印良品は基本的には無個性だけど、どう着こなすか、どう使いこなすかで自分なりの色や価値が生まれる。この家も同じですね。ぼくたちは目に見える価値ばかり追いかけてきたけど、時間をかけてデニムを自分にフィットさせるように、手直しながら、積み重ねるように築く価値にも目が向くようになりました。
- 夫
- 例えばこの家は塗り壁は壁紙と違い、自分で部分的に補修できるし、汚れやひび割れも味みたいになりますから。
- 松浦さん
- 塗り壁は時間が経つと良い雰囲気になりそうですね。白がただの白ではなくて、この家の白になる感じ。家ってそういうものですよね。世間の価値基準では計れない「価値」をつくりあげることができるのが家の面白さだと思うんですよ。
今は早く家を建てて良かったと思います
- 松浦さん
- ここが自分の居場所だと思うのはどこですか。
- 夫
- リビングかな。置き畳の上で「体にフィットするソファ」でゴロゴロしているのは好きです。(ここで奥様が登場)
- 松浦さん
- ご主人が家を建てたいって言った時、どう思いました。
- 妻
- うーん、家を建てるのはまだ早いと思っていたけど、どんどん巻き込まれていった感じで……。
- 松浦さん
- でも、ぼくも家を建てるのは早いほうが良いと思います。
- 妻
- そうですね。ローンを組んだ時にそう思いました。
- 夫
- うちの奥さんはあまり物欲もないし、インテリアへの興味もないんですよ。だから家具もぼくが決めたんだけど、理解してもらえないところもあるんです。男の感覚が強過ぎるのかな~とか。
- 妻
- 男性のこだわりの分野ですよね(笑)。私に特別なこだわりがないから、家づくりも衝突しないでスムーズに進んだのだと思います。彼は良いものをどんどん調べてくれるし、ホントにあっという間に家が建ってしまった。子供が生まれる前だったので、子供の分の収納が不足気味なのは計算外でしたが。
- 松浦さん
- ところでこの家の中で好きな場所はどこですか。
- 妻
- えーと、このへんでゴロゴロできるのがいいですね。
- 松浦さん
- あ、それはご主人と一緒ですね(笑)。